イベント
小水力発電も、岩魚も。共に棲んでゆける社会を目指して
木曽駒ヶ岳に端を発する奈良井川は、塩尻市・松本市の飲料水として取水される美しい川であり、その流れの傍らには多くの生き物が息づいていますが、その上流には「渓流の王様」、イワナ(岩魚)も生息しています。
そんなイワナの息づく奈良井川やその森の生物の多様性は、流れの周辺の自然環境はもちろん、やがて注ぐ海の生き物の多様性にも関わるほか、その水を飲み水としていただいている私たち人間社会にとっても大変重要で大切なものです。
今日、気候変動は生物多様性を損なう大きな要因の一つであり、その保全と回復のために再生可能エネルギーへ社会を移行していくことは時間を争う必須事項です。
しかし、そんな再生可能エネルギーも、ただむやみに数やボリュームを増やせばいいわけではありません。発電所が立つ地域社会とその自然環境にしっかりとケアと寄り添いの姿勢を持ち、共に共存していく在り方を探し見出していくことが大切です。
|イワナの産卵場作り&小水力発電所見学ツアーに参加!
肌寒さも感じ始めた10月7日、株式会社グリーン電力エンジニアリング(以下、グリーン電力エンジニアリング)さんと奈良井川漁業協同組合さんによって『イワナの産卵場作り&小水力発電所見学ツアー』が開催されました。
本イベントは、水力発電事業に伴う取水区間での河川流量の減少がイワナの生息環境へ影響を与えるため、その補完を行うために例年実施されている環境保全イベントです。コロナ禍もあり、なかなか思うような規模で開催してくることが難しかったそうですが、5回目を迎えた今年は、当社の電力需要家さまや、地域の小学生たちも参加し、大盛り上がりのイベントとなりました。
まずは産卵がしやすいように川底を均し、深さと砂の細かさを調整します。
バケツリレー方式で小学生たちがとっても頑張ってくれました。
グリーン電力エンジニアリングさんの法被には「𩸶」の一文字。
赤い色に力強いフォントがよく映えています。
大人も総出で動きます。
山の中まで来るともうかなり冷えますね。子どもたちにまけていられません。
準備ができたらイワナの放流の準備。まずはじっくり観察です。
いよいよ放流!元気で過ごしてくれることを祈りながらそっとイワナを川に放していきます。今回はオスとメスを15匹ずつ放流しました。
|小水力発電所見学ツアーへ
無事にイワナを放流し、お昼をいただいた後は、小水力発電所の見学へ向かいます。
発電機を回す水を水路に取り込む前に、砂や落ち葉などの不純物が入ることを防ぐ除塵機の見学
上流から水が水路を通って流れ込み、発電機を回します。
奈良井川は高低差が低いため、長い距離(約1.6km)の水路が必要とのこと。
発電機の鮮やかできれいな黄緑色は、「グリーン電力エンジニアリングなんだから“緑”じゃなきゃダメでしょ」という社員の方のセンスで決まったらしいです。
|つながりが生まれるということ
私たちUPDATER(みんな電力)がこちらのイベントに参加させていただくのは今回で3回目でしたが、今回新しかったことは「電力の需要家さまたちも参加してくださったこと」です。
『顔の見える電力』を標榜する私たちにとって、このような発電者さまとつながることができ、発電所の魅力に触れることができるイベントに需要家さまたちが来てくださるのは本当に嬉しいことです。コロナ禍に入社し、これまでなかなか現地の対面型の発電所ツアーをできていなかった筆者にとっては特に、発電者さまと需要家さまの距離が縮まり、楽しそうに会話をされている瞬間を見た時、思わず少しホロリとしてしまいました。
近年、再生可能エネルギーの発電所を建設する際に山林を大規模に伐採したり、景観を著しく損なったり、付近の生き物たちの生息地に大きな負の影響を与える発電所が問題視されています。
気候変動の解決のため、再生可能エネルギーの普及拡大、日本のポテンシャルをしっかり活用していくことは非常に重要、かつスピーディーに行っていく必要があることです。
しかし、同時に発電所の地域の人々、そこに生きている様々な生き物に対して最大限のケアの心と取り組みを行っていくことも同じくらい重要です。
美しい川があるからイワナはそこで暮らすことができ、子孫を残すことができます。その営みがあるからこそ、川は豊かになり、木々は根を張り、虫たちは這い、飛翔し、鳥たちは実を食べて花の受粉を助け、動物たちは地を蹴りいきいきと生命力を輝かせてくれます。
そしてやがてすべてが土に還り、森が育まれていきます。
この連環こそが、豊かな自然のある土地で私たちが暮らしていくことを可能にしてくれています。澄んだ空気の中、緑のある風景でゆっくりと深呼吸することを可能にしてくれています。川は私たちの喉の渇きを癒すだけでなく、心と精神にも大きな癒しをくれているのです。
悲しいことに、ずっと自然環境に対して不可逆的な経済活動を繰り返してしまっている私たち人間ですが、せめてできることを一つずつ、一つずつでも頑張っていきたい。
だから私たちは、イワナが生きていける川を守り、その川と気候変動を止めることができる再生可能エネルギーの共存を目指していきたいと心から思っています。
脱炭素事業部
電力調達チーム 園木豪流