法人のお客さま
地域や環境への配慮を体感した小水力発電の現場 〜この先もイワナが命をつなぐ川をめざして〜
川の水は、上流から下流へと流れていく。そんな自然の摂理を利用して電気をつくっている場所が、長野県塩尻市にある奈良井川萱ヶ平(かやがだいら)小水力発電所です。
10月はじめの日曜日、私たちはこちらの発電所を訪問し、電気がうまれる瞬間を目の当たりにしました。木曽山脈から流れてくる豊富な水の一部を利用してつくられた電気。再生可能エネルギーが「自然エネルギー」とも呼ばれる理由をあらためて認識できた、貴重な体験となりました。
電気が生まれる仕組み
せっかくなので、小水力発電所が電気をつくる方法をご紹介いたします。その仕組みはいたってシンプルです。
発電には、奈良井川の水の一部を使います。
取水口から発電用の水を取り込みます。
取り込んだ水は、このプール(沈砂池)で砂や落ち葉などの不純物を取り除いて、林道下に配置された大きな管に流します。
上流から、56メートルの高低差で勢いをつけた水が、約1.6km下の発電所に流れてきます。
その水が、水車(タービン)を1分間あたり900回転(1秒間に15回転)回すことで、発電しています。
発電を終えた水は、元の川へと戻っていきます。
グリーン電力エンジニアリングの弘田(こうだ)さんのお話がとても印象的でした。
「小水力発電所は、発電時にCO2を排出しないため、気候変動の抑制に有効です。しかし、簡単に増やせるわけではありません。発電所は、地域住民の皆さま、漁協さま、自治体さま、森林管理に関係する皆さまのご理解やご協力が必要です」
「また、太陽光発電と比べて初期コストがかかるというハードルもあります。実は、この発電所を建設して3カ月のころに、大きな台風で川に設置したコンクリートが破損し、莫大な金額をかけて修復するという出来事がありました。発電事業は、人と自然の両方と根気強く付き合っていく覚悟が必要です」
自然の恵みを人間が活用し、時に自然の厳しさを学びながら、そして様々な立場の関係者全員の理解があって、つくられた電気。あらためて「電気を大切に使おう」という気持ちになりました。
イワナの産卵場づくり
さて、この発電方法は川の水を取って戻すまでの約1.6km区間で、どうしても水量が減少します。
この区間の環境配慮の一環として、地域住民、漁業、自治体、森林管理、発電、電力小売に携わる人たちが、年に一度集まってイワナの産卵場づくりを行っています。
水産試験場の方の指導を受けながら、イワナが産卵しやすく、卵がかえりやすい環境を、人間の手で整えます。
こちらが出来上がった産卵場です。過去につくった産卵場では、後日イワナの産卵を確認できたそうです。ここも活用されてはじめて成功といえるのかもしれません。
続いて、イワナの放流です。奈良井川に生息している「ニッコウイワナ」と同種のオスとメスを、産卵場に放流します。放流したイワナも、自然のイワナも、どちらもこの地域で命を次に繋いでくれたらと願います。
休憩で振る舞われた美味しい豚汁に、心も体も温まりました。
体験を通して感じたこと
今回、発電事業者の方が、人と人とのつながりを大切に関係する全ての方の理解醸成に努められ、環境に配慮する取り組みにも尽力されている姿を拝見し、大きな学びになりました。
また、小水力発電は発電時のCO2排出量が少ないことは知っていましたが、開発や発電に伴う環境負荷も目で見て実感することができました。
私たちは、電気を使わずに生きていくことは難しい時代に生まれました。電気をあたりまえに使える日本の暮らしでは忘れがちですが、電気を使うためには発電所が必要で、そこには自然環境を変える開発が伴います。
そんな中で、誰がどんなふうにつくった電気なのか、知って選んで使うことは、私たちの生きていきたい未来をつくることでもあります。
地域に住まう人々や環境を大切にしたいなら、どんな電気を使ったらよいのか考える。このような貴重な機会をくださった、グリーン電力エンジニアリングのみなさま、本当にありがとうございました。
おまけ ちょっと足を伸ばすと奈良井宿
発電所から車で15分のところに、「奈良井宿」という江戸時代の宿場町がそのままの形で残っています。私たちは昼食で立ち寄りましたが、南北に約1km続く街並みを楽しむには、全く時間が足りませんでした。
グリーン電力エンジニアリングのみなさんやイワナとの再会も兼ねて、奈良井への再訪を心に誓いました。
みんな電力発電所一覧 https://portal.minden.co.jp/powerplant-info/MP000551
発電事業者 WEBサイト https://www.g-power.co.jp/
文章
SX共創本部ビジネスSX部 髙橋 智里
2019年に入社し、家庭向け電力サービスや法人向け脱炭素ソリューションの企画・マーケティングを担当。2023年4月からは土壌再生プロジェクト「みんな大地」にて、土壌データの見える化からはじめる環境再生コミュニティの創生に挑戦中。